経営

カード決済手数料は患者に上乗せできるのか

カード払いの患者にだけ手数料分を上乗せすることは、カード会社の加盟店規約で禁止されています。保険診療と自由診療それぞれの前提と、手数料の負担を正しく減らすための考え方を、公開情報をもとに整理します。

KEY POINTS

この記事の要点

  1. カード払いの患者にだけ手数料を上乗せすることは、加盟店規約で禁止されている
  2. 「カードは○円以上から」「現金なら割引」といった対応も、規約上の問題になり得る
  3. 負担を減らすなら、患者に転嫁せず、手数料率そのものを見直すのが確実

自由診療の比率が高いクリニックでは、売上の多くがカード決済を通ります。単価の高い施術が続けば、毎月の決済手数料もそれなりの金額になります。そこで一度は浮かぶのが、「カードで払う患者さんには、手数料分を上乗せしてもらえないか」という考えです。

結論から言うと、カード払いの患者にだけ手数料を上乗せすることはできません。法律で直接禁じられているわけではありませんが、カード会社と結ぶ加盟店規約で禁止されており、違反すれば加盟店契約を解除されるおそれがあります。

この記事では、上乗せが認められない理由と、保険診療・自由診療それぞれで押さえておきたい前提、そして手数料の負担を正しく減らすための考え方を整理します。

上乗せは加盟店規約で禁止されている

クレジットカードの加盟店手数料は、加盟店(医療機関)がカード会社に支払うものです。患者はカードで払っても、現金で払った場合と同じ金額を支払えばよい、というのがカード決済の基本的なルールです。

カード会社の加盟店向けの解説でも、加盟店規約ではカード利用者に手数料を上乗せして請求することを禁止しており、違反は加盟店契約の解除につながる可能性があると説明されています(三井住友カード「クレジットカードの手数料」)。

規約違反になるのは、「手数料」という名目で請求する場合だけではありません。同じ解説では、次のような対応も問題になり得るとされています。

  • 「カード払いの場合は○%上乗せ」とする
  • 「カード払いは○円以上から」と利用額に下限を設ける
  • 現金払いの患者にだけ値引きやサービスを提供し、カード払いの患者を実質的に不利に扱う

つまり、支払い方法によって患者の負担額や扱いに差をつけること自体が、規約上の問題になり得ます。名目を「事務手数料」「決済手数料」などに変えても、カード払いの患者だけに追加の負担が生じるのであれば、実質は同じです。

保険診療の場合: 窓口負担はそもそも公定

保険診療で患者が窓口で支払う一部負担金は、診療報酬にもとづいて決まる公定の金額です。医療機関が支払い方法に応じて増減させる性質のものではありません。

一部負担金をカードや電子マネーで受け取ること自体は、厚生労働省も「患者の利便性向上と医療機関等における事務の効率化の観点から差し支えない」との考え方を示しています(令和5年9月29日付 事務連絡「医療機関等における一部負担金のキャッシュレス支払いについて」)。

一方で、同じ事務連絡では、カード会社などが付与するポイントは「あくまで当面やむを得ないもの」と位置づけたうえで、医療機関が独自のポイントカード等でポイントを付与する場合について、次のいずれかに当たれば指導の対象としています。

  • ポイントを使って一部負担金を減額できるようにしている
  • 一部負担金の1%を超えてポイントを付与している
  • 一部負担金に対するポイント付与を大々的に宣伝・広告している

保険診療では、窓口負担を「増やす」ことも「実質的に減らす」ことも、制度の側で制約されていると理解しておくとよいでしょう。カード払いを受け付けるかどうかは医療機関の判断ですが、受け付ける以上、手数料は医療機関の経費として扱うことになります。

自由診療の場合: 価格は決められるが、支払い方法で差はつけられない

自由診療の料金は、医療機関が自ら設定するものです。決済手数料を含むさまざまなコストを踏まえて価格を決めること自体は、経営判断の範囲です。

ただし、それはすべての患者に同じ価格を提示することが前提です。「現金なら○円、カードなら○円」のように支払い方法で価格を分けると、前の章で見た加盟店規約の問題に当たります。

自由診療で決済手数料の負担が気になる場合、考え方は次の2つに分けられます。

1. 価格設定の段階で、コストとして織り込む

決済手数料は、家賃や人件費と同じく、施術を提供するためにかかるコストの一つです。料金表を見直す機会があれば、カード決済の比率と手数料率を前提に、採算を確認しておくとよいでしょう。ただし、価格は競合との比較や患者の受け止め方にも影響するため、手数料だけを理由に値上げするのは現実的でない場面も多いはずです。

2. 手数料率そのものを下げる

もう一つは、患者に転嫁するのではなく、医療機関が支払っている手数料率そのものを見直すことです。カード決済手数料は、契約先や取扱高によって条件が変わります。開業時に結んだ条件のまま、取扱高が増えても据え置きになっているケースは珍しくありません。

月のカード決済額が1,000万円のクリニックであれば、料率が0.5ポイント下がるだけで年間60万円の差になります。患者の負担を変えずに経営への影響を小さくできる点で、こちらのほうが取り組みやすい方法です。手数料がどのような内訳で決まっているのかは、クリニックのカード決済手数料は下げられるのかで詳しく解説しています。

上乗せ以外で、患者に誤解を与えやすい対応

規約違反とまでは言えなくても、患者との間でトラブルになりやすい対応もあります。

  • カード払いを受け付けていることを事前に案内しない: 会計時になって「カードは使えません」「この施術はカード不可です」と伝えると、患者の不信につながります。利用できる支払い方法や、分割払いの可否は、事前に案内しておくのが無難です。
  • スタッフによって説明が異なる: 受付スタッフが独自の判断で「カードだと手数料がかかります」と伝えてしまう例もあります。決済に関するルールは院内で統一し、スタッフに共有しておく必要があります。

よくある質問

カード払いの患者に手数料を上乗せすることは違法ですか?

日本の法律に、カード決済手数料の上乗せを直接禁じる条文はありません。ただし、カード会社の加盟店規約で上乗せは禁止されており、違反した場合は加盟店契約を解除されるおそれがあります。実務上は「できない」と考えるべきです。

「カード払いは○万円以上から」と条件をつけることはできますか?

カード会社の加盟店向けの解説では、カード払いに利用額の下限を設けることも規約違反に当たるとされています。カード払いを受け付ける以上、金額にかかわらず現金払いと同じように扱う必要があります。

現金払いの患者にだけ割引することはできますか?

現金払いの患者にだけ値引きやサービスを提供し、カード払いの患者を実質的に不利に扱うことも、規約上の問題になり得るとされています。また保険診療の一部負担金は公定の金額のため、値引きの対象にはなりません。

保険診療の窓口負担をカードで受け取ってもいいですか?

厚生労働省は、一部負担金のクレジットカードや電子マネーによる支払いについて、患者の利便性向上と事務の効率化の観点から差し支えないとしています。ただし、医療機関が独自のポイントカード等でポイントを付与する場合、一部負担金の1%を超える付与や、ポイント付与を大々的に宣伝することなどは指導の対象とされています。

手数料の負担を減らすには、どうすればいいですか?

患者に転嫁するのではなく、医療機関が支払っている手数料率そのものを見直す方法があります。契約先や取扱高によって条件は変わるため、現在の契約条件を確認したうえで、複数の事業者の条件を比較するのが基本です。

まとめ

カード払いの患者にだけ手数料を上乗せすることは、カード会社の加盟店規約で禁止されています。「カード払いは○円以上から」「現金なら割引」といった対応も、規約上の問題になり得ます。保険診療の一部負担金は公定の金額であり、支払い方法によって増減させることはできません。

決済手数料の負担を減らしたい場合は、患者に転嫁するのではなく、医療機関が支払っている手数料率を見直すのが確実です。月の決済額と料率から年間の差額を試算できるページも用意しています。カード決済手数料の見直し・削減額シミュレーションからお試しください。現在の条件が適正かどうかの確認から、ご相談を承っています。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。加盟店規約の内容は契約先によって異なりますので、実際の取扱いはご契約中の決済事業者の規約をご確認ください。保険診療に関する取扱いについて判断に迷う場合は、管轄の地方厚生(支)局にご確認ください。

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