経営

クリニックの固定費、どこから見直すか

固定費の見直しは、患者数を増やすより着実に損益に効く一方、どこから手をつけるべきか迷いやすい領域です。診療所の費用構成を公的統計で確認したうえで、見直しの優先順位の付け方と注意点を整理します。

KEY POINTS

この記事の要点

  1. 固定費は一度条件を変えれば効果が続き、着手が早いほど累積の効果は大きくなる
  2. まずは決済手数料や通信費など、診療の質に影響しにくく比較しやすい契約から見直す
  3. 最大の費目である給与費は単純に削減せず、業務配分の見直しとして考えるほうが現実的

経営を改善する方法は、収益を増やすか、費用を減らすかのどちらかです。このうち収益側は、患者数や単価といった外部要因に左右される部分が大きく、施策を打ってから結果が出るまでに時間がかかります。一方の費用側、とりわけ固定費は、条件を変えれば翌月から効果が出て、その後も自動的に続くという性質があります。

それにもかかわらず、固定費の見直しは後回しになりがちです。契約先を変えるには手間がかかりますし、日々の診療に追われていると「今の状態で回っているものを触る」優先度は下がります。開業時に決めた条件が、そのまま何年も続いているというケースは珍しくありません。

この記事では、診療所の費用構成を公的統計で確認したうえで、固定費の見直しをどこから始めるか、その優先順位の付け方を整理します。

まず全体像を数字で確認する

見直しの議論に入る前に、診療所全体としてどのような費用構成になっているのかを確認しておきます。

中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)の概要」(令和7年11月26日版)によれば、一般診療所(医療法人)の令和6年度における費用の構成比率(医業・介護収益に占める比率)は次のとおりです。

  • 給与費: 50.9%
  • 医薬品費: 11.1%
  • 材料費: 4.8%
  • 委託費: 3.8%(うち人材委託費0.7%、紹介手数料0.1%)
  • 減価償却費: 3.8%(うち医療機器減価償却費1.3%、建物減価償却費0.7%)
  • その他の医業・介護費用: 20.6%(うち設備機器賃借料1.3%、医療機器賃借料0.9%、水道光熱費1.2%)

また同調査では、一般診療所(医療法人)の損益率(平均値)は令和5年度の8.3%から令和6年度は4.8%へ、中央値は5.6%から2.7%へと低下したとされています。

ここから読み取れるのは、費用の半分以上が給与費であること、次いで医薬品費が大きな項目であること、そして「その他の医業・介護費用」として一括りにされている2割ほどの領域に、賃借料や水道光熱費など細かな費目が含まれていることです。

なお、この数値はあくまで全国の集計値であり、診療科や立地、有床か無床かによって構成は大きく変わります。自院の数字を同じ枠組みで並べてみて、どこに偏りがあるかを確認するところが出発点になります。

固定費と変動費を分けて考える

費用を見直す際は、患者数が増減しても金額が変わらない固定費と、診療量に連動して動く変動費を分けて捉えると、打ち手が整理しやすくなります。

  • 固定費に近いもの: 賃料、リース料、保守契約料、通信費、各種システムの利用料、正職員の人件費、損害保険料
  • 変動費に近いもの: 医薬品費、診療材料費、水道光熱費の一部、決済手数料

固定費は「契約を見直せば継続的に効く」性質があり、変動費は「単価や仕入条件を見直せば診療量に比例して効く」性質があります。どちらも見直しの対象になりますが、優先順位の付け方は異なります。

固定費見直しの優先順位の図解
見直しの優先順位

見直しの優先順位は「効果」と「手間」で決める

金額の大きい順に手をつけるのが合理的に見えますが、実際には最も大きい給与費が最も動かしにくい費目です。現実的には、次のような順番で検討していくことになると考えられます。

1. 自動更新になっている契約

まず確認したいのが、契約更新のタイミングで内容を検証しないまま継続している契約です。該当しやすいのは次のようなものです。

  • 決済手数料に関する契約
  • 通信回線、電話、インターネット関連
  • 各種システム・クラウドサービスの利用料(使っていない機能や、退職者分のアカウントが残っていないか)
  • 損害保険、賠償責任保険
  • 清掃・廃棄物処理などの委託契約

これらは診療の質に直接影響しにくく、比較検討がしやすい領域です。特に決済手数料は、開業時に決めた条件のまま長く据え置かれていることがあり、その後に取扱高が増えていれば見直しの余地が生じている可能性があります。

2. 仕入条件に関わるもの

医薬品費や診療材料費は、費用構成のなかで給与費に次ぐ規模の項目です。単価そのものだけでなく、発注の頻度、在庫の持ち方、卸との取引条件など、複数の要素が絡みます。

在庫を多く抱えることは、資金が寝るだけでなく、使用期限による廃棄のリスクにもつながります。単価の交渉と、発注・在庫管理の見直しは、あわせて検討したい領域です。

3. 契約期間の縛りがあるもの

リース契約や保守契約は、中途解約に違約金が発生することが多く、すぐに動かせるとは限りません。ただし、契約満了の時期を一覧にしておくことで、更新のタイミングで条件を検討する準備ができます。

「いつ、どの契約が切れるのか」を把握していないと、気づいたときには自動更新されているという事態が起こります。契約書を集めて満了日を一覧化しておくだけでも、意味のある準備になります。

4. 人件費は最後に、しかも慎重に

給与費は最大の費目ですが、単純に削減すれば経営が改善するとは限りません。人員が不足すれば診療の回転が落ち、残ったスタッフの負担が増え、離職につながる可能性があります。離職が起きれば採用と教育のコストが発生し、結果として費用が増えることもあり得ます。

人件費に関して検討する余地があるとすれば、金額そのものより、業務の配分に関する部分です。

  • 資格が必要な業務と、そうでない業務が適切に分担されているか
  • 事務作業のうち、システム化や外部委託で減らせる部分がないか
  • 特定の時間帯だけ人手が足りない状態を、シフトの組み方で吸収できないか

賃金を下げるのではなく、同じ人員でこなせる業務量を増やす、あるいは無理な負荷を減らすという方向で考えるほうが、中長期的には現実的だと考えられます。

見直しで陥りやすい失敗

固定費の削減に取り組む際、次のような形で意図しない結果を招くことがあります。

  1. 診療の質や安全性に関わる部分まで削ってしまう
  2. 目先の単価だけを比較し、サービス内容や対応範囲の違いを見落とす
  3. 手続きの手間が大きすぎて、途中で頓挫する
  4. 一度見直して終わりにしてしまい、数年後にまた同じ状態になる

とくに2は起こりやすい失敗です。契約先を変えた結果、トラブル時の対応が遅くなったり、これまで含まれていた作業が別料金になったりすれば、実質的な負担は減っていないことになります。比較の際は、金額だけでなく提供される内容を並べて確認する必要があります。

また、見直しは一度きりの作業ではありません。年に一度、契約の一覧と直近の費用を突き合わせる時間を決めておくと、状態が元に戻りにくくなります。

よくある質問

クリニックの費用で一番大きい項目は何ですか?

中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)の概要」(令和7年11月26日版)によれば、一般診療所(医療法人)の令和6年度の費用構成比率では、給与費が医業・介護収益の50.9%で最も大きく、次いで医薬品費が11.1%となっています。ただし診療科や施設の形態によって構成は変わりますので、自院の数字で確認することが前提になります。

固定費を見直すなら、まずどこから手をつければよいですか?

診療の質に影響しにくく、比較検討がしやすい契約から始めるのが現実的だと考えられます。決済手数料や通信費、システム利用料、各種委託契約などが該当します。金額の大きい人件費から手をつけると、診療体制やスタッフの定着に影響が及ぶ可能性があるため、優先順位としては後になります。

リース契約は途中で見直せますか?

契約内容によります。中途解約に違約金が設定されている場合が多く、すぐに動かせないことも少なくありません。まずは契約書で満了日と中途解約の条件を確認し、更新のタイミングに向けて比較検討の準備をしておくという進め方が現実的です。

コスト削減はどのくらいの頻度で見直せばよいですか?

一律の基準はありませんが、契約の多くが年単位で更新されることを踏まえると、年に一度、契約一覧と直近の費用を突き合わせる機会を設けておくと管理しやすくなります。あわせて、取扱高や患者数が契約時から大きく変わったタイミングも、条件を確認する機会になり得ます。

まとめ

固定費の見直しは、まず自院の費用構成を全体像として把握し、固定費と変動費を分けたうえで、診療の質に影響しにくく比較しやすい契約から着手していくのが現実的な進め方だと考えられます。給与費は最大の費目ですが、単純な削減ではなく業務配分の見直しとして考えるほうが、中長期的には合理的です。

一度条件を変えれば効果が継続するのが固定費の特徴であり、着手のタイミングが早いほど累積の効果は大きくなります。決済手数料や医薬品の仕入れを含むコスト面のご相談は、開業支援・経営支援のページからお問い合わせいただけます。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の成果を保証するものではありません。引用した統計は特定年度の全国集計値であり、個々の医療機関の状況とは異なります。実際のご判断にあたっては、自院の数値と契約内容をご確認ください。

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