薬剤の仕入れコスト、見直しの余地はどこにあるか
薬剤の仕入れは慣行で続いていることが多く、条件を検証する機会が少ない領域です。国内承認薬と海外医薬品の違いを含め、見直しを考える際の観点を公開情報をもとに整理します。
薬剤の仕入れは、開業時に決めた卸業者との関係がそのまま続いていることが多く、条件を客観的に検証する機会が少ない領域です。日々の診療で必要なものを発注し、請求された金額を支払う。この流れが定着していると、そもそも見直せるものだという認識自体が薄れがちです。
この記事では、薬剤の仕入れコストを考えるうえで知っておきたい取引の仕組みと、見直しを検討する際の観点を整理します。
保険診療と自由診療で前提が異なる
まず押さえておきたいのが、保険診療で使う薬剤と自由診療で使う薬剤では、価格の考え方がまったく異なるという点です。
保険診療の医薬品には薬価基準という公定価格があり、医療機関はこの薬価で保険請求します。一方、卸から仕入れる価格(納入価)は薬価より低いのが通常で、この差が薬価差益と呼ばれます。つまり保険診療では、仕入れ価格を下げた分がそのまま収益に反映される構造になっています。
自由診療の薬剤には公定価格がありません。仕入れ価格も販売価格も市場で決まるため、仕入れ条件の差がより直接的に収益性に影響します。自由診療中心のクリニックほど、仕入れ条件の検証は経営インパクトが大きい領域だと言えます。
「総価取引」と「単品単価取引」の違い
薬剤の仕入れ交渉を考えるうえで理解しておきたいのが、取引形態の違いです。
総価取引
医療機関が購入する全品目をまとめて、「ひと山いくら」で割引率と取引価格を決める方式です。医療現場では古くから「総価山買い」とも呼ばれてきました。総価で交渉したうえで、個々の単価を卸の判断で設定する契約(単品総価契約)と、全品目を一律の値引率で設定する契約(全品総価契約)があります。
交渉が簡便である一方、個々の医薬品の価格設定の根拠が見えにくいという課題が古くから指摘されてきました。
単品単価取引
薬の品目ごとに購入価格を決める取引方式です。銘柄別薬価制度の趣旨に沿った形であり、厚生労働省の「医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会」による緊急提言でも、総価取引に代わるものとして推進が重要と位置づけられています。
日本ジェネリック製薬協会の解説によれば、この単品単価取引の普及は「薬価基準制度の根幹とも言える」とされています。ただし現実には、未妥結減算ルールの導入により短期間での妥結が求められるようになった結果、かえって単品単価取引の推進が進みにくくなったという指摘もあります。
自院がどちらの形態で取引しているかを把握していない場合、まずそこを確認することが見直しの出発点になります。
海外医薬品は、国内承認薬とは前提がまったく異なる
自由診療の領域では、国内で承認されていない医薬品を用いることがあります。この場合、国内承認薬の仕入れとは制度上の枠組みがまったく違うため、分けて理解しておく必要があります。
輸入者は医師本人になる
厚生労働省の説明によれば、医薬品を営業のために輸入するには、医薬品医療機器等法(薬機法)の規定により厚生労働大臣の承認・許可等が必要です。一方、医師が自身の患者の治療のために未承認薬を輸入する場合は、地方厚生局に必要書類を提出し、輸入確認証の交付を受ける形になります。2020年9月1日以降、従来の「薬監証明」に代わってこの名称になりました。
ここで重要なのが、輸入した医薬品の扱いです。厚生労働省は、輸入報告書に署名した医師本人が他の医師などにその薬剤を使用させたり譲渡したりした場合、薬機法違反となり処罰の対象になると明示しています。つまり、輸入した薬剤は署名した医師が自身の患者に用いるという前提が崩せません。
「安く買う」だけでは判断できない領域
このような制度上の制約があるため、海外医薬品の調達は、単価の比較だけで判断できるものではありません。輸入手続きが適正に行われているか、輸入者が誰になっているか、流通経路が追跡できるか。こうした点が満たされていない調達は、価格が安くてもリスクを抱えることになります。
確認しておきたい点
- 輸入者が誰になる建て付けか(医療機関か、事業者か)
- 輸入確認証の申請手続きが適正に行われているか
- 調達経路が明確で、追跡可能な形になっているか
- 保管・輸送時の温度管理などの品質管理体制
- 手続きにかかる期間(申請から交付までの所要日数を含む)
コストの見直しを考える際も、まずこの適法性・透明性が確保されていることが前提になります。そのうえで、手続きや物流を担う事業者によって条件に差が出てくる、という順序で考えるのが現実的です。
見直しを検討する際の観点
1. 現在の取引条件を可視化する
品目ごとの納入価が把握できているか、それとも総額でしか見ていないか。まずここを確認します。総価取引の場合、どの品目が相対的に高いのかが見えないため、改善の余地があっても気づきにくくなります。
2. 使用量の多い品目から確認する
すべての品目を精査するのは現実的ではありません。使用量・金額の大きい品目に絞って納入価を確認するだけでも、全体への影響は把握できます。
3. 卸業者を比較する
長年同じ卸との取引が続いている場合、その条件が現在の市場水準と比べてどうなのかは、比較しないと分かりません。ただし、卸業者との関係は価格だけで決まるものではなく、配送の頻度や緊急時の対応、在庫の融通といったサービス面も含めて総合的に判断する必要があります。
4. 価格以外の条件も含めて考える
支払いサイト、最低発注ロット、返品条件、緊急配送への対応なども、実質的なコストや診療の安定性に影響します。単価だけを下げた結果、運用面で負担が増えるのでは本末転倒です。
交渉の余地は「情報の非対称性」にある
薬剤の仕入れ交渉が難しい理由の一つは、医療機関側が市場全体の価格水準を把握しにくいことにあります。自院の納入価が高いのか安いのか、比較対象がなければ判断できません。
逆に言えば、他の医療機関がどの程度の条件で仕入れているかという相場観を持てるかどうかが、交渉の成否を左右します。この情報格差を埋めることが、仕入れコスト見直しの実質的な出発点になります。
よくある質問
薬剤の仕入れ価格は交渉できるものですか?
はい、卸業者との交渉によって決まるものです。ただし医療機関側が市場の価格水準を把握していないと、提示された条件が適正かどうかを判断しにくいため、比較材料を持つことが重要になります。
総価取引と単品単価取引、どちらがいいですか?
単品単価取引は品目ごとの価格根拠が明確になるため、厚生労働省の懇談会でも推進が重要と位置づけられています。一方で、品目数が多い場合は交渉の手間が増えます。まずは使用量の多い品目から単品単価に切り替えていく、といった段階的な進め方も現実的です。
卸業者を変えるべきでしょうか?
価格だけで判断するのは避けた方がよいと考えられます。配送頻度、緊急時の対応、在庫の融通といったサービス面は診療の安定性に直結します。現在の卸との関係を維持しつつ条件を見直す、という選択肢も含めて検討することをおすすめします。
自由診療の薬剤も同じように見直せますか?
自由診療の薬剤には薬価基準のような公定価格がなく、仕入れ・販売とも市場価格で決まります。そのぶん仕入れ条件の差が収益性に直接影響するため、見直しのインパクトはむしろ大きくなりやすい領域です。
海外の医薬品を使う場合、輸入者は誰になりますか?
医師が自身の患者の治療のために未承認薬を輸入する場合、輸入者は医師本人となり、地方厚生局への申請を経て輸入確認証の交付を受ける形になります。厚生労働省は、署名した医師本人が他の医師などにその薬剤を使用させたり譲渡した場合は薬機法違反にあたると明示しています。
海外医薬品の調達で、価格以外に確認すべきことは何ですか?
輸入者が誰になる建て付けか、輸入確認申請が適正に行われているか、調達経路が追跡可能か、保管・輸送時の品質管理体制はどうか、といった点です。価格の比較は、これらが確保されていることを前提に行うべき順序になります。
まとめ
薬剤の仕入れは、慣行で続いていることが多く、条件を検証する機会が少ない領域です。まずは自院の取引形態(総価取引か単品単価取引か)を把握し、使用量の多い品目から納入価を確認するところから始めるのが現実的です。
海外医薬品については、価格以前に輸入手続きの適正性と流通経路の透明性が前提になります。国内承認薬とは制度が異なるため、分けて検討する必要があります。
比較材料がないままでは適正水準の判断が難しいため、外部の視点を入れることも有効な選択肢です。当社でも、薬剤の仕入れをはじめとする経営コストの見直しについてご相談を承っています。海外医薬品については、輸入手続きと物流を担う事業者をご紹介する形でご支援しています(輸入者は医療機関となります)。詳しくは開業支援・経営支援サービスのページをご覧ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の成果を保証するものではありません。また、特定の医薬品を推奨するものではありません。薬価制度や輸入に関する制度は改定されますので、実際のご検討にあたっては厚生労働省・地方厚生局の最新の情報をご確認のうえご判断ください。
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