採用

スタッフが定着する組織のつくり方

スタッフの定着は給与だけで決まるものではありません。公的統計で医療・福祉分野の人の動きを確認したうえで、離職の理由から逆算した組織づくりの考え方と、日々の運営に組み込める仕組みを一般的な観点から整理します。

KEY POINTS

この記事の要点

  1. スタッフの定着は給与だけで決まるとは限らず、労働時間・休日の設計や職場の構造も関わる
  2. 人間関係の問題は相性ではなく、役割の曖昧さや指示系統といった組織の構造として捉え直す
  3. 入職直後の受け入れ方を決める、業務の一覧をつくるなど、負担の小さい仕組みから始める

採用に力を入れても、入職したスタッフが次々に辞めていけば、募集と教育を繰り返すことになります。求人にかかる費用も、既存スタッフが新人を育てる時間も、退職のたびに失われていきます。採用の成否は、入職者の数ではなく、何人が残って戦力になったかで決まる面があります。

一方で、定着の問題は原因が見えにくい領域でもあります。「人間関係が原因らしい」「あの人は合わなかった」といった個別の事情に回収されがちで、組織としての課題が特定されないまま次の採用に進んでしまうことがあります。

この記事では、公的統計で人の動きの全体像を確認したうえで、定着を支える仕組みをどう設計するかを、一般的な観点から整理します。個別の状況によって取るべき打ち手は変わりますので、検討の出発点としてお読みください。

まず、人の動きを数字で確認する

厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」によれば、令和6年1年間の「医療,福祉」における入職率・離職率は次のとおりです(カッコ内は全産業計)。

  • 計: 入職率14.1%(14.8%) / 離職率13.8%(14.2%)
  • 一般労働者: 入職率13.1%(11.8%) / 離職率13.1%(11.5%)
  • パートタイム労働者: 入職率16.6%(22.7%) / 離職率15.7%(21.4%)

ここから読み取れることは、いくつかあります。まず、全体の離職率で見ると「医療,福祉」は全産業計をわずかに下回っており、他業種と比べて極端に離職が多い分野というわけではありません。ただし一般労働者に限ると離職率は全産業計を上回っており、常勤層の入れ替わりは相対的に活発です。逆にパートタイム労働者では、入職率も離職率も全産業計より低くなっています。

つまり「医療は離職が多い」と一括りにするより、常勤とパートで人の動き方が異なるという前提に立ったほうが、実態に近い見立てになると考えられます。なお、この数値は「医療,福祉」という産業分類全体の集計値であり、診療所単体の傾向を示すものではありません。

「辞めた理由」から逆算する

同じ調査では、転職して入職した人が前職を辞めた理由も集計されています。全産業の集計値ですが、令和6年の結果では、男性は「その他の個人的理由」20.2%と「その他の理由(出向等を含む)」13.5%を除くと「定年・契約期間の満了」14.1%が最も多く、次いで「給料等収入が少なかった」10.1%となっています。女性は「その他の個人的理由」24.3%を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%が最も多く、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%となっています。

医療機関に限った数字ではないため、そのまま自院に当てはめることはできません。ただし、労働条件と人間関係という2つの領域が上位に並んでいることは、組織づくりを考えるうえでの手がかりになります。

労働時間と休日は「設計」の問題

労働条件に関する不満は、待遇そのものよりも、予定が立たないことから生じている場合があります。

  • 終業時刻が読めず、私生活の予定が組めない
  • 特定の曜日や時間帯だけ人手が足りず、負荷が偏っている
  • 希望休の出し方や承認の基準が明文化されていない
  • 誰かが休むと他の人にしわ寄せが行く前提でシフトが組まれている

これらは個人の頑張りではなく、シフトと業務量の設計から生じている問題です。人員を増やさなくても、予約枠の取り方、受付終了時刻の運用、業務の前倒しといった調整で改善できる余地があることも少なくありません。

人間関係は「相性」ではなく「構造」で捉える

人間関係の問題を個人の相性として扱うと、打ち手は「合う人を採用する」しかなくなります。しかし実際には、次のような構造的な要因が摩擦を生んでいることがあります。

  1. 役割の境界が曖昧で、誰がやるべきか決まっていない業務がある
  2. 指示の経路が複数あり、言うことが人によって違う
  3. 評価の基準が示されておらず、頑張りが処遇に反映されている実感がない
  4. 相談先が院長しかなく、院長が忙しいと相談が滞る

構造として捉え直すと、業務分掌の整理や指示系統の明確化といった、組織側で着手できる打ち手が見えてきます。

スタッフの定着を支える4つの仕組みの図解
定着を支える4つの仕組み

定着を支える4つの仕組み

制度を一度に整える必要はありません。負担の小さいものから、運営に組み込んでいくことが現実的です。

1. 入職直後の立ち上がりを設計する

最初の数週間に何を覚え、誰に聞けばよいのかが決まっていないと、新人は「聞くこと自体が迷惑ではないか」と考えて動けなくなります。習得する業務の順序、指導担当者、初期の面談時期を決めておくだけでも、立ち上がりは変わります。

2. 役割と期待水準を言語化する

職務内容と、どこまでできれば一人前とみなすのかを文章にしておくと、指導の基準が揃い、評価の納得感も高まります。詳細な人事制度でなくとも、業務一覧と到達段階を示すだけで機能する場合があります。

3. 話す機会を「仕組み」として持つ

困りごとを拾う場が日常会話しかない場合、話しかけやすい人の情報だけが院長に届きます。短時間でも定期的な面談の枠を設けておくと、問題が大きくなる前に把握しやすくなります。

4. 退職時に理由を聞き、記録する

退職の申し出があった段階では、本音が語られないことも多いものです。それでも、退職者から聞き取った内容を継続的に記録していくと、個別の事情に見えていたものの中に共通の傾向が見えてくることがあります。

定着は採用の段階から始まっている

入職後のギャップが早期離職を招くのであれば、選考の段階で実態を率直に伝えておくことが最も効果的な対策になります。忙しい時間帯、残業が発生しやすい状況、担当してもらう業務の範囲、教育にかけられる時間。これらを事前に共有することは、短期的には応募者を減らすように見えても、結果として定着につながりうると考えられます。

また、求人票に書いた条件と実際の運用が異なっている場合、入職者は「聞いていた話と違う」と受け取ります。募集要項の内容が現在の運用と合っているかを、採用のたびに確認しておく価値があります。

よくある質問

スタッフがすぐ辞めてしまうのは、給与が低いからですか?

給与は要因の一つですが、それだけとは限りません。厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」の全産業集計では、前職を辞めた理由として女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」が上位に挙がっています。給与を上げても勤務の負荷や職場環境が変わらなければ、定着につながらない可能性があります。

面談は、どのくらいの頻度でやればいいですか?

一律の基準はありません。重要なのは頻度そのものより、不定期にせず枠として決めておくことだと考えられます。時間が取れない場合でも、入職直後の一定期間と、その後の定期的なタイミングを決めておくだけで、問題の早期把握につながりやすくなります。

少人数のクリニックでも評価制度は必要ですか?

厳密な人事評価制度が必要とは限りません。ただし、何ができれば期待に応えていることになるのかが示されていないと、処遇への納得感は得にくくなります。まずは業務の一覧と到達段階を文章にするところから始める方法が考えられます。

辞めると言われたとき、引き止めるべきですか?

状況によりますが、引き止めの可否より、理由を丁寧に聞くことのほうが組織にとっては意味があります。同じ理由での退職が続いているのであれば、それは個人の事情ではなく組織の課題である可能性が高く、次の対策につなげることができます。

まとめ

スタッフの定着は、個人の相性や気持ちの問題として扱うと打ち手が見えにくくなります。労働時間と休日の設計、役割と指示系統の整理、立ち上がりの支援、話す機会の確保といった、組織側で着手できる要素に分解して捉え直すことが出発点になると考えられます。

すべてを一度に整える必要はありません。入職直後の受け入れ方を決める、業務の一覧をつくるといった、負担の小さいところから始めることをおすすめします。

採用と定着に関するご相談は、医療人材紹介のページからお問い合わせいただけます。


本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の成果を保証するものではありません。引用した統計は特定年度の全国集計値であり、個々の医療機関の状況とは異なります。実際のご判断にあたっては、自院の状況と関係法令をご確認ください。

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